1:経緯
1957年、日本建築学会・南極建築委員会が設計、(株)竹中工務店が実施設計、制作した第1次南極観測隊用建物が1997年40年ぶりに昭和基地から帰ってきた。
この建物の中には、我が国初の木製パネル構造プレハブ建築(平面:4.8m×8.4m=40.3m2)が含まれている。標準パネルは長さ242cm×幅121cm×厚さ10cm、尾州檜の枠材及び芯材で構成されたフレームの両面樺合板(6プライ.厚さ:6㎜)を張り、中空部にEPS断熱材をはさんだ軽量・高断熱パネルである。
この構成材料、部材の性能が、竹中技術研究所と日大理工学部で調査された。
2:EPS断熱材の熱伝導率変化
熱伝導率測定は、JIS.A.1412(保温材の熱伝導率測定法)に準じて行われ、創建当時からの熱伝導率の変化はほとんど見られなかった。
3:まとめ
南極で40年経過したこの建屋のEPS断熱材は、非常に厳しい使用環境にも係わらず断熱性が建設当初の性能に比べほとんど劣化していないことがわかった。
EPS成形体の寸法収縮率の一例を示したのが下図です。 時間と共に寸法収縮率が緩やかになり300日以上経過しても 収縮率0.4%以内に落ち着きます。
発泡プラスチック系断熱材のなかには、気泡内の気体によって熱伝導率を維持しているものもありますが、そのような断熱材は長期使用の間に気体が減少して熱的性能が低下することがあります。ISO.11561-B法は、熱伝導率の経年変化を簡易的に求める試験方法で、厚さ10±1㎜の試験片を25±
2℃、相対湿度50±5%の雰囲気中で91±7日間保管、気体逸散を促進して得られた熱伝導率値を、製造25年後の断熱材(厚さ100㎜換算)の熱伝導値と予測します。
92日目の熱伝導率すなわち25年後の熱伝導率値(100㎜厚換算)はいずれの種類(密度)についてもJIS.A.9511(1995)規格より低い値を維持しており、EPSが長期間に渡って安定した熱的性能(断熱効果)を維持することが証明されました。
EPS特号品および他の発泡プラスチック系断熱材の熱伝導率の経時変化を片対数グラフに整理したのが右図です。断熱性能を気泡内の気体(特に分子の大きなフロン類)に依存している一部の発泡断熱材は、熱伝導率の経時劣化著しいのがわかります。一方、EPSの熱伝導率変化はわずかで、長期に渡ってJIS規格値を満足しています。